2020.12.06 07:07
- #中東文学
2020.11.07 05:05
先日、神保町に出かけた。適当にカレーを食べて本を買ってカフェで読んで帰ろうというプランだったが、古本屋を巡っても中々ピンと来る本に出会えない。
苦し紛れに入ったチェッコリという本屋で見つけたのがこのシリーズだ。
思えば韓国の文学ってあんまり読んだことがない。中国の文学も残雪とか余華とか劉慈欣くらいしか読んだことないけど。どちらかと言えばお堅いイメージが強い。朴景利 『土地』とか。最近『82年生まれ、キム・ジヨン』が売れてるな、と横目に見ている程度でそもそも全然知らない。
でも「新しい」って書いてあるからきっと新しいんだろうな、と思ってとりあえず1とナンバリングされている掲題『菜食主義者』を買ってみた。
結果、めちゃくちゃ面白かったのでこのシリーズを全部読んでそれぞれにレビューを書いていくことにした。
ルールとして飛ばさず昇順に読んでいくが、ツボにハマらず最後まで読むのが負担になる作品があれば何故気に入らなかったのかその理由を書いていく。また、本の紹介と書評、感想の他にオススメ度を五段階で評価する。
作品・著者情報 「新しい韓国文学シリーズ」第1作としてお届けするのは、韓国で最も権威ある文学賞といわれている李箱(イ・サン)文学賞を受賞した女性作家、ハン・ガンの『菜食主義者』。韓国国内では、「これまでハン・ガンが一貫して描いてきた欲望、死、存在論などの問題が、この作品に凝縮され、見事に開花した」と高い評価を得た、ハン・ガンの代表作です。
CHEKCCORI BOOK HOUSEの本書籍のページより
「菜食主義者」「蒙古斑」「木の花火」と三部構成になっている。独立した短編ではなく、登場人物は同じだがそれぞれストーリーテラーが違う。また一部と二部では時系列が同じだが三部は時系列的にそれよりも後の話になっている。パク・チャヌクの映画「お嬢さん」を連想させる構成。「お嬢さん」の方がこの本より後なのでむしろパク・チャヌクが本作を参考にしたのではないかと思うほど構成がユニークだし似ている。
第一部、「菜食主義者」では、主人公チョンの妻ヨンへがある日突然「夢を見た」という理由で肉を一切食べなくなる。彼女のモチベーションは環境保全でも動物愛護でもなく、単に「夢を見た」というだけである。その夢の内容も繰り返し描写されるが、とても不気味で具体的なイメージだ。ヨンへは日に日に痩せ細り、それを見かねたヨンへの家族は彼女に無理矢理肉を食べさせようとする。
第二部はヨンへの姉の夫を語り手とし、第三部はヨンへの姉、ヨンホを語り手としているが、全編に共通するのは語り手たちの歪んだ欲望である。ヨンへは確かに狂っている(彼女は下着を履くこともやめ、最後には肉を食べないのではなく本気で植物になろうとする)が、彼女を取り巻く周囲の人間の歪みが彼女によって増幅されていく様が圧巻だ。ネタバレを避けるために詳述は避けるが、この対比による「普通の狂気」の増幅が本作の鍵になっていると言ってよい。
同時に描かれるのは韓国に根強く残る家父長制とそれによる抑圧だ。ヨンへとヨンホの姉妹が育った家庭についての描写が度々差し込まれるが、抑圧が彼女たちの歪みを生んだのではないかと想像させられる。
5段階中4。そもそもこの本がきっかけでシリーズを全部読もうというモチベーションが湧いたわけでとても面白い本だったが、この記事を書いている時点でシリーズ二作目のキム・ジュンヒョク著『楽器たちの図書館』を読了しており、そちらが超破壊的に面白かったため相対評価で4とした。